反ユダヤ主義との戦い
ホロコーストがユダヤ人伝道に与えた影響
紀元前6世紀のバビロニア捕囚以降、ユダヤ民族の生存を最も脅かしたのがホロコーストです。十字軍やヨーロッパ各国からの追放、ポグロムや現在イスラエルが経験する紛争など、時代を超え様々な脅威がユダヤ人を形成してきた、と言っても過言ではありません。しかしユダヤ人人口の減少やユダヤ人コミュニティーの崩壊などという観点から見て、近代史上ホロコーストに並ぶ事例は見られません。
世界中のユダヤ人にこの悲劇が与えた影響は計り知れず、それはイエスを信じるユダヤ人も例外ではありません。ホロコースト前夜、ヨーロッパに住んでいたユダヤ人ビリーバーの数は数十万人だったと考えられています。そのほとんどが世界中へと逃亡し、逃げることが出来なかった多くは犠牲者となりました。70年以上の年月が経った後もホロコーストは私たちに深い影を落としており、信仰的な父祖に当たるホロコースト時のユダヤ人ビリーバーの経験は私たちの活動に大きな影響を与え、私たちのユダヤ人伝道を形作っているとも言えます。
私たちユダヤ人は、ホロコーストのヒーローたちのうえに立っています。そしてビリーバーにとっては、ワルシャワ・ゲットーのユダヤ人ビリーバーという、知られざるストーリーがあります。クローズアップされていない物語ですが、これは語り継がれるべきものです。
ナチス侵攻とワルシャワ・ゲットー建設
1939年ナチス・ドイツがポーランドに侵攻。占領後、すぐに反ユダヤ的な規則や政策が進められました。ワルシャワ・ゲットー設置もその一環で、その他にもウッチやヴィリニュスなどユダヤ人が多くいたポーランド・リトアニアの各都市でナチスによるゲットーが建設されました。
ワルシャワにゲットーができたのは、1940年11月でした。50万人近いユダヤ人がゲットーという、狭く塀に囲まれた場所に収監されることとなりました。1年後の1941年には、人口密集による劣悪な衛生状況とそれにより起こった伝染病、食糧不足や厳しい強制労働などで約4万5000人が命を落としました。
翌年1942年には、ゲットーに居たほとんどのユダヤ人が6つある絶滅収容所の1つとして知られるトレブリンカに送られ、ゲットーの人口は約6万人に減少しました。1943年4月にナチス政府はワルシャワ・ゲットーを取り壊し、残ったユダヤ人たちをトレブリンカ強制収容所へ送ろうとしたところ、ユダヤ人による蜂起が勃発。
モルデハイ・アニエレヴィッツ率いるこの戦いは28日間に渡る激闘ののち鎮圧され、ゲットーは解体されることとなったのです。(1)
ポーランドにおける大戦前のユダヤ人伝道
聖公会のユダヤ人伝道団体CMJ(Church's Ministry Among Jewish People、1809年創設)のユダヤ人宣教師だったマルティン・パーソンは、ナチス侵攻前のワルシャワにおけるユダヤ人伝道についてこう記しています。
ワルシャワの川を挟んで東側に、アメリカユダヤ人伝道局(現在のチョーズン・ピープル・ミニストリー)のセンターがある。彼らは一般的な伝道活動の他に、研究活動も行っている。マイルドメイ・ミッション(現在のメシアニック・テステモニー)はワルシャワのユダヤ人地区にあるホールを拠点とし、主に貧しいユダヤ人に対して活動している。アメリカ・ヨーロッパ・フェローシップもワルシャワで、子供に向けて活動している。彼らはラドソ地区の屋敷を所有し、そこは夏の子供向けの活動に使われていた。ウッチ・べテル・ミッションも宣教センターを持っている。それらに加えポーランドでは聖霊派の伝道師が1人、オープン・ブレザレンのメンバーが1人、クローズド・ブレザレンのメンバーが1人とその他数人の福音派が信仰のなか生きている。そして4つの宣教団体は、協力しながら活動している。(2)
そしてパーソンズのCMJも1927年にインマヌエル・ホールを建設し、ワルシャワにおけるメシアニック・ジューたちのショーケース的な存在になりました。当時ポーランドのメシアニック・ジューには、H.C. カーペンター、ポール・レヴァトフ、そしてJ.I. ランズマンという3人の主要な指導者たちがいました。そしてマルティン・パーソンズは1927年からナチス侵攻まで、ワルシャワで活動。その他にも(メシアニックの学者ジェイコブ・ヨッチの父)バズィリ・ヨッチなど多くの宣教師が、CMJと共に活動しました。
ワルシャワ・ゲットーでのユダヤ人ビリーバー
ナチスがポーランドに侵攻した時すでにユダヤ人の状況はひどいものでしたが、その後「(ユダヤ人問題の)最終的解決」が地獄からの使者のようにポーランドを訪れました。ユダヤ人やユダヤ人のために働く伝道師たちも多くは集められ、その場で殺されるか絶滅収容所に送られました。大混乱のなか伝道活動は完全に消滅、二度と回復できないような状態になったのです。
このように300万人のユダヤ人コミュニティーと共に、ポーランドにおけるユダヤ人伝道も灰と化しました。ユダヤ人に福音を宣べ伝えるという活気ある活動は完全に破壊されて姿を消し、この戦争は人・時代の両方に終止符を打ちました。
ピーター・F・デンボウスキーは自身の有名な著書「ワルシャワ・ゲットーのクリスチャンたち(Christians in the Warsaw Ghetto)」の中で、ゲットー内で計5000~6000人のユダヤ人ビリーバーが居たのではないかと推測しています。(3)
ラクミエル・フリードランドは、ゲットーに居たユダヤ人ビリーバーとの自身の経験をこう書き残しています。
1944年後半、墓地や荒廃した教会または(ユダヤ人を匿っている事が見つかることに)恐れる友人の家で身を潜めていた私は、ワルシャワ・ゲットーから逃れた数少ないユダヤ人生存者の一人だった。ワルシャワにはもともと50万人が居たが、最後に残されたのは5000人であった。神の助けにより、私はゲットーの跡地に潜入し、まだ生きていたユダヤ人ビリーバーに励ましの言葉を掛けた。その他ユダヤ人の同胞も話を聞き、なかにはイエスをメシアと信じる者もいた。(4)
フリードランドは最も著名な、ユダヤ人ビリーバーのホロコースト生存者の一人です。彼が直接経験した証は、戦前と戦中のワルシャワを生きたユダヤ人ビリーバーの日常の様子を知るための、重要な記録になっています。
また別のユダヤ人ビリーバーの重要な証言としては、自伝『ひとつの生の物語』を書いたルドヴィク・ヒルシュフェルト博士が挙げられます。
デンボウスキーはヒルシュフェルトについて「ゲットーとゲットー住民の日常生活の様々な側面について、最も精通している情報提供者である」と評しています(5)。
ヒルシュフェルト博士の自伝はゲットーからの逃亡の直後に書かれたもので、彼や同じゲットーに住む同胞たちの人生についての詳細な記述の他に、彼の信仰に対する証も記されています。彼は著名な科学者であり、ユーゴスラビアでポーランド軍の軍医を務めていました。そこで彼は血液型を判定するための方法論という人生をかけた研究を始め、彼の研究成果は現在でも使用されています。そんなヒルシュフェルトは20代でビリーバーとなり、彼の信仰から生まれる活力は学者としての活動や人としての行動に生かされました。
様々なユダヤ人宣教や教会の記録などから、ホロコースト前には多くのイエスを信じるユダヤ人の改宗例があったことが分かります。そしてその流れはゲットーの解体と破壊まで脈々と続きました。ワルシャワはメシアニック・ジュー運動の拠り所であり、数十のユダヤ人宣教団体の家だったのです。
大戦前やゲットー時代に、ユダヤ人宣教団体や福音派の教会を通して信仰に導かれた彼らは真のビリーバーであり、その悲惨な境遇のなかメシアの慰めを得ることができました。彼らの声に関しては記録が決して多くはないのですが、将来私たちは彼らの苦しみや殉教の証を耳にすることとなるでしょう。永遠に続く御国では彼らの声は高らかに響き渡り、私たちの声もそれに加えられるのです。
そして私たちのために苦しんだのち、苦しみと死や悪、そして神とその民に敵対する全ての者に打ち勝たれた、主を共にほめたたえることになるでしょう。
ゲットーの恐怖と苦しみは、メシアの恵みと慰めによりいずれ拭い去られるのです。
注:
(1) 教師のためのホロコースト・ガイド (The Teacher’s Guide to the Holocaust)
(2) 1937年、IMCCAJのウィーンでのカンファレンスにて。
(3) ピーター・デンボウスキー (Peter Dembowski)、Christians in the Warsaw Ghetto: An Epitaph for the Unremembered, Notre Dame (University of Notre Dame Press), 2005, pp. 68
(4) https://www.messianicassociation.org/bio-frydland.htm
(5) デンボウスキー (Dembowski), pp. 114
反ユダヤ主義に対してどのように
私たちは祈ることができるでしょうか?
創世記12章3節の「あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたをのろう者をわたしはのろう。地上のすべての民族は、あなたによって祝福される。」という神様のアブラハムと子孫たちへの約束以上に、明確な聖書の言葉はありません。
反ユダヤ主義は、その被害者よりも、その加害者にとってより破壊的だと結論付けられます。
敵によるそのような酷い仕打ちを何世紀にも受け続けているユダヤ人たちの苦悩も熟考し難いことですが、神様ご自身が愛する者たちを憎むと決意する者たちに対する、永遠の裁きを想像することの方が恐ろしいのです。
信仰を持つ者として、私たちは反ユダヤ主義と、いかなる形の差別にも反対する必要があります。
受賞歴もあるバーナード・マラマッドの小説、「The Fixer (フィクサー)」に登場するヤコブ・ボックが看守たちに与えられた新約聖書を読み、気づくように、「反ユダヤ主義者になるには、先ず、イエス・キリストを憎む必要がある。」のです。
信仰を持つ者である私たちには、反ユダヤ主義が日本国内で蔓延することを防ぐための重要な役割が与えられています。
私たちは、ユダヤ人のために祈り、彼らを肯定すると共に、励ます福音の御言葉によって、イスラエルの国と日本のユダヤ人コミュニティと共に立ち、私たちのサポートを示すことを任されていますが、それは私たちの家庭から始まります。
メシアの体には、言葉や行動が偽りの霊からきていると分かる者には反対するという預言的働きが与えられています。
私たちは、自らの心をも探る必要があります。霊によってのみ与えられる改心の力が必要である、何かしらの偽りが私たちの中にありませんか?なぜなら、私たちの主は、「まず自分の目から梁を取りのけなさい。そうすれば、はっきり見えて、兄弟の目からも、ちりを取り除くことができます。」(マタイの福音書 7章5節)と仰ったのではないでしょうか?
ユダヤ人に対する神様の愛にあって、
クリスチャンは様々な方法で祈ることができます。
第一に、ユダヤの民がメシアの良い知らせに対して心を開き、それを受け入れるように祈るべきです。
日本にいるユダヤ人コミュニティも祈りに覚えてください。
ユダヤ人に対する憎しみを持ち続ける人々のためにも、神様の全てにまさる力によって、彼らの心が変えられるようにお祈りください。
イスラエルの国と、世界中にいるユダヤ人コミュニティが守られるようにお祈りください。
チョーズン・ピープル・ミニストリーズ日本支部の働きのためにお祈りください。
私たちが日本のユダヤ人コミュニティにおいて、福音を効果的に広め続け、反ユダヤ主義の蔓延を防ぐために最善を尽くすことができるように。
そして、反ユダヤ主義に対する確実な対抗手段は、「恐れを締め出す」メシアの全き愛です。(1ヨハネ4:18)